難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今を春べと 咲くやこの花

アニメ『ちはやふる』を見ていると一番耳にする歌はこの歌かもしれません
競技かるたの大会が始まるシーン
緊張感のあるの空気の中、この歌が朗々と詠われる光景を幾度も目にしました
しかしいくら探してもこの歌は百人一首に見つけることはできませんし、当然取り札も存在しません

↓こんな取り札はないです

序歌の偽札

この歌は序歌(じょか)という位置づけの歌で、序歌は競技かるたにしかありません
家庭や学校でのかるた大会では読まれることがないので、競技かるたを見て初めて知った方も多いでしょう

「序(じょ)」とは物事の始まり、発端、糸口の意味です

序歌は知らなくても、序文はご存じの方は多いと思います
書物の初めに書き添えられた文章のことです
前書(まえがき)ともいいますね
よく見るのは、作者がその書物を書くきっかけになった出来事や気持ちなどを書き記した文章です
その後に目次があり、本文へと続いていきます

つまり序歌とは「歌の始まり」という意味になりますが、「歌」とは何を指すのでしょうか
これは当然百人一首のことを指します
百人一首の糸口になる歌を序歌と言います
これは書物でいう「本文」が百人一首であるとすれば、その前に糸口にあたる「序文」が序歌ということになります

ではなぜ序歌が必要なのでしょう

みなさんは競技かるたをご覧になったことはありますか
1月にテレビや動画サイトで放映されているのを見たことがある人がいるでしょう
人気漫画『ちはやふる』の実写映画版やアニメ版でも迫力ある描写に目が釘付けになった方がいらっしゃると思います
使う札はおなじみの小倉百人一首で変わりないのですが、競技かるたは「畳の上の格闘技」と言われるほどの迫力をもって競われます
歌が始まると同時に選手たちの手が動き札を跳ね飛ばします
その目にもとまらぬ早業に驚かされます

競技かるたは、上の句の最初の6文字以内で下の句を決定して札を取り合うゲームです
最初の1音を聞いただけで取れる札もあります
ということは”歌い始めを聞き取ること”がとても大切だということになります

「位置について」「よーい」「どん」

誰もが経験のある徒競走の掛け声です
この掛け声で選手は一斉にスタートを切ることができます

競技かるたも同じ方法を使います

現行の札を取り終わり選手が指定の位置に座ります
それを確認して読み手が現行の札の下の句を読みます→「位置について」
1秒の間を置きます→「よーい」
そして次の歌の上の句の最初の1音目→「どん」

次の歌の前に1秒の間は必要不可欠なものなのです

2首目以降は前の札の下の句を読むことで解決できます
しかし最初の札には前の札がありません
そのため最初の歌の前に百人一首とは無関係な歌を用意する必要があったのです
これが序歌なのです