民衆の七夕祭の歴史に、機を織る女性の存在はあるのでしょうか。
そして、民衆の七夕の歴史はどうだったのでしょうか。
柳田国男氏の七夕についての伝承を調べてみました。
結論から言って、タナバタツメは出てきません。
タナバタツメの続きを読みたいかたは、この回は読む必要はありません。
まずは、「五節供」についてです。
- 江戸幕府の初期に、五節供というものをきめて、この日は必ず上長の家に、祝賀に行くべきものと定めたという話
- 盆は不幸のなかった家々では、以前もやはりおめでとうという日であり、普通にはこの日から十五日までの間に、親や目上の人の健在を祝する酒宴があった。それを数字が揃そろうので七月七日ということにきめたものと思われる。
- この五節供の日を制定するに先だって、幕府では各藩各領の実状を調べさせたところが、人日や七夕には地方毎の風習の差が甚しく、とても民間と歩調を合わせることが出来ないのを知って、結局は理論に拠よってこの五つの日を決したという話が伝わっている。うそかも知れないが外形は少なくともそうなっている。つまりよく考えて勝手にきめさえすれば、人民は付いて来るだろうと思ったのである。ところが必ずしも予測の如くならず、民間には別に独自の年中行事があって、衰えたりまた盛んになったりしながらも、なお今日までは続いている。
『年中行事覚書』より
今日まで続いているのは、上からのお仕着せの儀式とは別に、もともと民間にあった独自の年中行事の方だった、というものです。
七月七日の各地の行事について
柳田国男著『年中行事覚書』より
1 眠流し(ネブリナガシ)考
七月七日または、翌日の朝に川や池に水浴びに行くこと。
女性の髪や硯を洗ったり、七夕の笹や飾り物、人形を流したりもする。
長野では、主に子供が行っていた。
関東では青年男女。
日本海側では、海に人形を流す風習が多い。
新潟の元住吉神社の湊祭は、屈強の男子が人形船などを飾り立てて、行列を作って行った。
青森のネブタでは巨大な紙張りの人形を作り、日中から担ぎまわる。
災厄を除去するの意味がある。
眠りを流す(そして働こう)、といった意味もあるらしい。
2 犬飼七夕譚
七夕の昔話
昔一人の老翁があった。
瞿麦(なでしこ)の花を栽えると天人が降りるということを聞いて、庭にその種子を蒔いて見ると、果して天人が降りて来て水に浴して遊んだ。
その一人の羽衣を取匿し、困っている天人をつれ帰って、共に楽しく暮していたが、馴れるに任せて羽衣を匿したことを打明けたところが、天人は早速その羽衣を捜し出して、それを着て天へ還ってしまった。
その折に、もし私に会いたいと思ったら、厩肥を千駄積んでその上に青竹を立て、それに伝わって昇って来いと言ったので、男はその通りにして後から天へ昇って行った。
天では別に何の用もないので、畠の瓜をもぐ手伝いをしていた。
そうして天人の戒めを破ってその瓜を二つ食ったところが、たちまち大水が出て別れ別れになってしまう。
これからはせめて月に一度だけ逢うことにしようと言ったのを、傍からアマノジャクが、なに一年に一度だぞと言ったので、今でもこの日だけしか逢うことが出来ない。
また七夕の日に青竹を立てるのはこういういわれだとこの土地ではいっている。(上伊那郡小野村)
この羽衣説話そっくりな話が、七夕のはじまり話として、鹿児島県の喜界島や、天草地方、奄美大島、島原半島、津軽地方などに伝わっている。
この手の話が大好きなので永遠に書いていたいのですが、タナバタツメも、水辺の機も出て来そうにないので、ここらあたりでやめます。
「盆の七月の七夕という日に、二つの星が銀河を渡って相会するなどという話は、書物を読んだ人が知っているだけで、数からいうと十分の一にも足らぬ人がそう言ったのである。」
「現在知られている事実だけに依って見ても、いわゆる七日盆の習俗には、織女牽牛の中国から来た伝説と、何等の交渉のない部分がかなり大きく、また我々の民間の星合い祭にも、かの古今集の和歌に列記してあるような、優美なる詠歎以外の感覚が加味している。」
『年中行事覚書』より
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