藤原実方朝臣
ふじわらのさねかたあそん
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもいを
| 意訳 |
| 気持ちを伝えることさえできない。だからもちろん、この燃える思いをあなたは知らないだろうね。 |
| 歌の種類 |
| 恋 『後拾遺集 恋一612』 |
| 決まり字 |
| かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもいを |
| 語呂合わせ |
| 書くさ(かく さ) |
人物
藤原実方朝臣(?-998年)
中古三十六歌仙の一人。
藤原公任・源重之・藤原道信などと親交があった。
清少納言とも親しい間柄であった。
陸奥の国で没す。
同じ濡れるなら桜の木の下で
『古事談』に、実方の逸話があります。
あるとき、殿上人たちで桜を見に、東山へ行きました。
急な雨で、皆、雨宿りに右往左往します。
ただ、実方だけは桜の下に立ったまま、歌を詠みました。
桜狩 雨は降りきぬ 同じくは 濡るとも花の 蔭に宿らむ
(桜狩にきて 雨が降ってきた どうせ濡れるなら 桜の木陰に居ようじゃないか)
実方、風流のために、体を張りました。
そして、もちろん、ずぶ濡れになりました。
これを面白く思った殿上人で評判になりました。
しかし、藤原行成が「歌はおもしろし、実方は痴(おこ)なり」、と言ったと聞いて、実方は行成を恨みます。
その後二人が宮廷で口論になったとき、実方は、行成の冠を叩き落として、庭に投げ捨てました。
行成は少しも動ぜずに、雑用の人を呼んで、冠を拾わせ、頭に被ると髪を整えてから、実方に対応しました。
「どういうことでしょうか?理由をお聞かせいただきたい。」
こんな行成に、実方は白けてしまい、逃げました。
これを見ていた一条天皇は、行成を評価し、実方を陸奥に左遷します。
実方は、陸奥で事故で死ぬのですが、ここでも逸話があります。
ある道祖神の前を馬で通りかかった実方に、土地の人が下馬を勧めます。
実方がそれに対して「下品な女神などに、下馬する必要などない」と言って、乗馬のまま通り過ぎました。
怒った明神が、馬を暴れさせたので、実方は落馬し、その傷がもとで死んでしまったというものです。
桜狩の件が『撰集抄』、行成との口論が『古事談』、落馬が『源平盛衰記』です。
実方という人のお人柄がお分かりになられますでしょうか。
読み上げ
| 050 藤原義孝 君がため | 052 藤原道信朝臣 明けぬれば |
