謙徳公
けんとくこう
あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
あわれとも いうべきひとは おもおえで みのいたずらに なりぬべきかな
意訳 |
わたしのことを大切に思う人はもういない。わたしはこのまま、死んでしまうのでしょうよ。 |
歌の種類 |
恋 『拾遺集 恋五950』 |
決まり字 |
あわれとも いうべきひとは おもおえで みのいたずらに なりぬべきかな |
語呂合わせ |
哀れみの(あわれ みの) |
人物
謙徳公=藤原伊尹(924年-972年)
右大臣師輔の長男。
息子は義孝。 『一条摂政御集』の作者。
身分の低い男の恋に燃えるセレブ
右大臣が父、という伊尹です。
財産も、地位も、美貌にも、恵まれていた伊尹は、さぞや女性にもてたと思います。
さて、この歌ですが、失恋の歌です。
もの言い侍りける女の後につれなく侍て、さらに逢はず侍ければ
『拾遺集』詞書より
親しくしていた女性にだんだんつれなくされて、ついには逢ってもくれなくなったので作った歌。
あなたに愛されなくなって、もう死んでしまうんだ!
自分を捨てた女に憐れみを請う、女々しさの極地のようなこの歌。
なんと伊尹が、身分の低い男、倉橋豊蔭に扮しての歌です。
庶民、豊蔭さんの恋物語を詠った歌集が『一条摂政御集』なのです。
言い交わしけるほどの人は、豊蔭に異ならぬ女なりけれど、年月を経て返り事をせざりければ、負けじと思ひて言ひける
『一条摂政御集』より
お互いに思い合った人は、豊蔭と同じくらいの低い身分の女性だった。
なのに、月日が経つごとに返事もくれなくなってしまった。
そんな女に、負けじと思って詠った歌。
身分の低い男はこんな風に思うのであろうと想像しての、詞書です。
なにかと失礼なような気がするのですが。
セレブさんとはそんなものなのかと思います。
件の女性からの返事です。
なにごとも 思ひ知らずは あるべきを またはあはれと たれかいふべき
何事も知らなければ、あなたを思う気持ちもあったでしょうが、今更、気の毒だなんて誰が言うかしら。
豊蔭さんは、何かやらかしたんですね。
読み上げ
044 中納言朝忠 逢ふことの | 046 曾禰好忠 由良の門を |