祐子内親王家紀伊
ゆうしないしんのうけのきい
音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の 濡れもこそすれ
おとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでの ぬれもこそすれ
意訳 |
有名な高師浜のあだ波には、引っ掛らないように気をつけないと、袖が濡れてしまいます。同じく有名な浮気者にも、引っ掛らないように気をつけないと、袖が涙で濡れますわ。 |
歌の種類 |
恋 『金葉集 巻第八恋部下469』 |
決まり字 |
おとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでの ぬれもこそすれ |
語呂合わせ |
音をかける(おとを かける) |
人物
祐子内親王家紀伊(生没年未詳) 後朱雀天皇の皇女祐子内親王の女房。
女房三十六歌仙の一人。
「荒波」のように高まる恋心を訴える男と、
それは「あだ波」のような浮気心でしょと切り返す女
『金葉集』の詞書に、「堀河院御時艶書合によめる」とあります。
堀河天皇の1102年6月18日に行われた艶書合での歌だということです。
艶書合(えんしょあわせ)とは、虚構の恋の歌を披講する遊びです。
・男性から女性への求愛と、その返事
・女性から男性への恨みごとと、その返事
紀伊の相手は、29歳の中納言俊忠(藤原俊成の父親)。
人知れぬ 思ひありその 浦風に 波のよるこそ 言はまほしけれ
人知れず、あなたを想っているこの恋心を打ち明けたいのです。
有磯(ありそ)の浦の風に寄る波のように、気持が激しく高ぶる夜には。
歌遊びに相応しい技巧を凝らした歌です。
- ”思いあり”と”有磯の浦”で、”あり”を懸けています。
- ”ありそ”は、日本海の「有磯の浦」と、荒磯(あらいそ)を連想させます。
- ”波の寄る”と”夜こそ”で、”よる”を懸けています。
しかし、内容的にも技巧面においても、紀伊の歌は二倍、三倍にして返しています。
- 有磯(ありそ)の浦に対して、高師浜のあだ波で返しています。
- ”高い”、は”高師浜”と”音=噂に高い”を懸けています。
- ”音”、”濡れ”、”浦”、”かけ”は、波の縁語。
- ”かけじや”は、”気に掛けない”と、袖に波を”掛けない”を懸けています。
- ”濡れ”は、”波に濡れる”と”涙で濡れる”を懸けています。
- ”あだ”は”いたずら”という意味。
”いたずらな波”は、”いたずら心=浮気心”を懸けています。
この艶書合の時、紀伊は推定70歳。俊忠の倍以上の年齢でした。
読み上げ
071 良暹法師 さびしさに | 073 祐子内親王家紀伊 音に聞く |